2020年の Apple Silicon Mac について

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2020年11月10日、Apple Siliconを乗せた新しいMacのモデルが公開されました。

ラインナップは

  • Macbook Air (13インチ)
  • Macbook Pro (13インチ)
  • Mac mini

で、それぞれM1チップを積んでおり、他のプロセッサオプションはありません。

価格はそれぞれ最低値が

  • Air: $999
  • Pro: $1299
  • mini: $699

で、ベースモデルはメモリは8G、ストレージが256GBになります。

グラフィックス統合チップを使っているのでカスタマイズオプションは少なくメモリを16GBにするのに+$200、ストレージを増やすのに概ね$400/TB 程度となります。

スペックの解説は他のサイトに詳しいので、ここでは個人的な見解を書いていきます。

今回アップルが注力した点は、「ハード面でどれだけ手を抜けるか」ということだと思います。まずは作るチップの種類を最小限(1種類)に抑えた上で、可能な限り広い範囲に届く製品ラインアップ(エントリー向けの3種類)を組みました。Apple Siliconのデビュー作として効果を出すためには一番客層の厚いエントリー層に向けた製品を出すのは必然だったと思います。ハードウェアのデザインは昔のものをそのまま流用し、チップ統合やファンの撤去によって余ったスペースはおそらくバッテリーで埋めたものと思われます(一週間後にiFixitが分解したときにわかりますね)。ここ数年で出した製品はM1への移行がスムーズになるようにM1を意識した設計がほどこされていた可能性もあります。

ハード面で浮いたリソースはどこに回されたのでしょうか。これはおそらくx86ベースからARMベースのシステムにするために必要だった後方互換性をとるためのソフトウェア周りに、でしょう。私は異なるアーキテクチャでソフトウェアの互換性をとるための開発がどのくらい困難なものかはわからないのですが、発売からすぐにソフトウェア周りに多数の不具合が見つかるようでは評判が悪くなるのでこの部分のテストに注力するのは適切なように思われます。

どれを買えばいいかは人それぞれだと思いますが、Macbook AirとProが全く同じプロセッサで動いていることは注目すべきところだと思います。同じプロセッサだから同じパフォーマンスが出るかというとそういうものではなく、Airはファンレスで排熱が弱いので少しでも長い計算を行うと発熱で計算能力を落とすかもしれません。このあたりはベンチマークの結果を見たいところです。A14のTDP(Thermal Design Power)が6Wであることを考慮するとM1はおそらく10W程度だと思われるので、ファンレスでも十分な可能性はあります。それ以外では性能は同じだと思われるのでラップトップがいいかデスクトップがいいか、あるいはタッチバーが好きかどうかで決めていいのではないかと思います。

M1チップについてですが、A14との違いはハイパフォーマンスコアが2つから4つになったこと、GPUコアが4つから8つになったことで、あとは大体同じです。イベントの少し前にA14Xという(存在しない)チップの非公式のGeekbench 5スコアのリークがあったようで、スコアは7000程度とのことでした。A14がだいたい4000くらいなので、ハイパフォーマンスコアが2倍になり、高効率コアが4つのまま据置きであることを考えるとこれがM1でも納得できる数値だと思います。これは Ryzen 7 4800HS や Core-i7 10875Hと同程度で、モバイル用のハイエンドのものと肩を並べる程度のパフォーマンスになり、これ自体ラップトップとしてはそれほど驚異的な数字ではありません。しかし、消費電力がそれらハイエンドCPUの1/3から1/4になると予想されることも考慮に入れると驚くべき数字になります。ほとんど非合理とも言える効率で有名なRyzen 4800Uですら15Wでスコア6000程度なことを考えると、10W程度のプロセッサで7000を出すとなると、何かがおかしいようにも感じます。このあたりの数字は将来もっとコア数を増やした際にデータセンター等で使えるかどうか、というところに関わってくる可能性があるので適切な測定がなされる(あるいはデータが提供される)ことを期待します。

科学計算をするのに適切な計算機であるかという観点から見ると、ハードウェアの観点から言うと十分に使用に耐えうると思います。ただ、最初のうちはARMネイティブで動くソフトが少ないかもしれないので、ソフトウェアの移行が進んでから購入する方が賢いかもしれません。このままのスペックでもかなりの計算はできますし(中堅デスクトップ程度かと)、発熱やファンノイズの問題もほぼないと言えるでしょう。ハイエンドデスクトップを置き換えたいのであれば、来年以降のiMacかMac Proを待つ方がよさそうです。

もしニューラルエンジンがモデルのトレーニングで(Tensorflowなどで)簡単にできるようになった場合、購入することも考えています。本当はより高性能なプロセッサを積んだiMacを待ちたいところですが、どうするか少し決めかねています。長くなりましたが、以上です。

Author: Shinya

I'm a Scientist at Allen Institute. I'm developing a biophysically realistic model of the primary visual cortex of the mouse. Formerly, I was a postdoc at University of California, Santa Cruz. I received Ph.D. in Physics at Indiana University, Bloomington. This blog is my personal activity and does not represent opinions of the institution where I belong to.